♪♪バッハのモテット♪♪

  

 モテットの起源は13世紀以降に発展した世俗的なポリフォニー歌曲にあると言われています。ルネサンス期以後はミサ通常文によらない多声の宗教的声楽曲としての性格が強まり、さかんに作曲され礼拝で演奏されていました。さらに、バロック時代のドイツのプロテスタント教会では、コラールを利用したモテットが作られるようになり、シュッツやシャイン、ローゼンミュラーらはイタリアから入ってきた複合唱様式を採り入れたモテットを作曲しました。

 バッハの時代になって、プロテスタントの主要な礼拝音楽としての地位は教会カンタータに取って代わられ、モテットは副次的な存在になっていたようです。

しかしながら、その存在意義がまだまだありました。第1にライプツィヒでは礼拝音楽として役割を持ち、100年以上も前に作曲された古い曲集『フローリレギウム・ポルテンセ』(1576~1636年)のモテットを礼拝の冒頭に歌っていたと言われています。第2に合唱隊の練習曲としての機能があり、日頃、礼拝で歌っているモテットではバッハの教会カンタータの要求する高度な技巧を身につけるには不十分で、そのため自作のモテットを使って合唱隊を訓練しました。そして第3に、葬儀や慶事など特別な機会に演奏される機会音楽としてのもので、バッハのモテットの最も重要な役割がありました。

 バッハの時代の聖トーマス学校の規定によれば、同校の生徒たちはライプツィヒの一般市民の葬式に参加するという決まりごとがありました。葬儀に参加する生徒の数は遺族が支払う金額によって異なり、賛美歌やモテットが歌われるかはカントルの裁量にまかされていたようです。通常の場合は前述のモテット集の中の曲を演奏し、特別な場合にバッハ自身が作曲したモテットを演奏したと言われています。現在、残っているモテットは6曲ありますが、主の讃美を主題としたBWV225 ”Singet dem Herrn ein neues Lied”とBWV230 “Lobet den Herrn, alle Heiden”をのぞく4曲がこうした葬儀で演奏されたと言われています。BWV227 “Jesu, meine Freude”はライプツィヒの聖ニコライ教会で行われた郵便局長夫人ヨハンナ・マリア・ケースの追悼礼拝のために作曲されたのではないかと言われています。

 


♪♪バッハのモテットとコードリベット・コール♪♪

 

 コードリベット・コールの2019年の教会音楽連続演奏会にバッハのBWV227 ”Jesu,  meine Freude”に取り組みます。コードリベット・コールがバッハのモテットに取り組んだのは意外と遅く1951年に創立して17年経過した1978年からでした。

 

年         作品番号                     演奏曲目

 1 1978  BWV227           Jesu, meine Freude 

 2 1981  BWV225           Singet dem Herrn ein neues Lied

 3 1982  BWV226           Der Geist hilft unser Schwachheit auf

              BWV230            Lobet den Herrn, alle Heiden

 4 1983 BWV227             Jesu, meine Freude

 5 1985 BWV229             Komm, Jesu, komm

 6 1995 BWV228             Fürchte dich nicht, ich bin bei dir

 7 1998 BWV225             Singet dem Herrn ein neues Lied

 8 2005 BWV226            Der Geist hilft unser Schwachheit auf

 9 2008 BWV227            Jesu, meine Freude

10 2011 BWV229             Komm, Jesu, komm

11 2013 BWV230             Lobet den Herrn, alle Heiden

12 2016 BWV225          Singet dem Herrn ein neues Lied

     BWV Anh.159    Ich lasse dich nicht, du segnest mich denn

 

 


♪♪モテット”イエスよ、わが喜び” BWV227の構成♪♪

 

 「イエスよ、わが喜び」はバッハの6つのモテットの中でもっとも大規模な作品で、ヨハン・フランクのテキストにヨハン・クリューガーが作曲した有名なコラール「イエスよ、わが喜び」を主題にしたきわめて緻密に構成された6曲のコラールを展開し、これに新約聖書「ローマ人への手紙」の第8の1・2・9・10・および11節をテキストとして用いた5曲の合唱曲を配し、全部で11曲のモテットとしては極めて異例の大規模な曲となっています。

 

全曲を支配するコラール主題は以下のとおりです。

 バッハはこの主題を基本的な4声体のコラールとして、ソプラノまたはアルトを定旋律としたコラール、コラールの第3節(第5曲)では主題はきわめて巧妙に変奏されており、ちょっと聴いただけではコラール主題があるのか分かり難くなっています。下記の譜例の赤で表示した部分が主題になっています。

全曲を閉じる第6節のコラールの最後が、開始部と同じ、「イエスよ、わが喜び」(Jesu,meine Freude)という言葉で閉じられています。バッハはこれを利用し、モテットの冒頭のコラールと掉尾のコラールを4声体のコラールを配置することによって、楽曲全体で大きな枠が形作られるように構成しています。これはヨハネ受難曲でも用いられた方法でです。

曲の全体を構成を図示すると

 第1曲 4声体コラール 第1節 Jesu, meine Freude 

   第2曲 5声の合唱曲 Es ist nun nichts Verdammliches an denen

     第3曲 コラール第2節(ソプラノ定旋律) Unter deinem Schirmen

       第4曲 ソプラノ・アルトのみ Denn das Gesetz des Geistes

         第5曲 コラール第3節(変奏) Trotz dem alten Drachen

           第6曲 フーガ Ihr aber seid nicht fleischlich

         第7曲 コラール第4節(ソプラノ定旋律) Weg mit allen Schätzen!

       第8曲 アルト・テノール・バスのみ So aber Christus in euch ist

     第9曲 コラール第5節(アルト定旋律) Gute Nacht, o Wesen

   第10曲 5声の合唱曲 So nun der Geist des 

 第11曲 4声体コラール第6節 Weicht, ihr Trauergeister

 

第6曲のフーガを中心に対照的な配列第1と第11、2と10、3と9、4と8、5と7になっていることが分かります。また第6曲フーガのテキストは”あなたがたは、肉ではなく霊の支配下にいます”と言う信仰の核心となっています。


♪♪モテット”イエスよ、わが喜び” BWV227のの演奏形態♪♪

 

 バッハの6つのモテットの中で器楽のパート譜が残っているのはBWV226 “Der Geist Hilft unser Schwacheit auf”のみです。また、BWV230 “Lobet denHerrn, alle Heiden”の出版楽譜に楽器を伴ってというコンストゥルメンティという言葉が記載されている出版楽譜が発見されており、ベーレンライターの楽譜にはオルガンと記された伴奏譜が載せられていることはご存じだと思います。その他の曲は器楽のパート譜は存在していません。

 パレストリーナのモテットの影響もあり、バッハのモテットもア・カペラで演奏されることもあったのですが、バロック時代においてコラ・パルテ(Colla Parte)と言って楽譜の主声部のリズム・テンポに沿って器楽の伴奏する習わしがあたったことから1960年頃からこのコラ・パルテ方式での演奏方式での演奏が多くなっているようです。

 私の所有しているディスクでも”Jesu, meine Freide”では、ヒリヤード・アンサンブルのみがア・カペラで演奏していますが、ガーディナー/モンテヴェルディが第4曲と9曲をア・カペラで演奏しその他の曲はコラ・パルテで、クリストファーズ/ザ・シックスティーンが第4曲のみをア・カペラで演奏、他の曲はコラ・パルテで演奏しています。アーノンクール/スコットランド・バッハ合唱団、リリング/ゲヒンガ―・カントライ、ニコル・マット/ヨーロッパ室内合唱団、鈴木雅明/BCJは全曲コラ・パルテで演奏しています。また、新・旧のヘルヴェッヘ、ユングヘーネル、ヤーコブスはソリストによる演奏ですがコラ・パルテで演奏していました。

 と言うことで、最近の演奏形態は器楽の伴奏を伴うコラ・パルテが主流となっていると言えるのではないでしょうか。

 


♪♪BWV Anh.とは何?♪♪

 

 2016年末のJVC国際協力コンサートで演奏予定のJ.S.バッハのモテット "Ich lasse dich nicht, du segnest mich denn"(われを祝福せずば汝を放さず)BWV Anh.159ですが、BWV番号の後にAnh.と言うアルファベットが続いています。これは「追加」または「補遺」の意味をもつドイツ語のAnhangの略ですが、さらに「偽作」の意味があります。このモテットはJ.S.バッハの楽譜帳にこのモテットの終曲のコラールとして"Warum betrubst du mich, mein Preis" BWV421と共に発見されたため、J.S.バッハの作として扱われたのですが、発見後の研究によりヨハン・クリストフ・バッハが作曲したものであることが判明しました。しかし、J.S.バッハの作曲として親しまれていたことからBWVの後にAnh.を付加して通常のBWV番号の曲とは区別されています。

 この曲に関して偽作と言う言葉が付加されていますが非常にいい曲です。

 

補足:"Ich lasse dich nicht, du segnest mich denn"(われを祝福せずば汝を放さず)BWV Anh.159は近年の研究でワイマールさらに遡ったミュールハウゼン時代(カンタータ106番Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit(神の時こそいと良き時)を作曲した頃)のJ.S.バッハ自身の作曲であると言う説が有力になっているそうです。

  


♪♪讃美歌「まぶねのかたえに」♪♪

 

 讃美歌21に含まれる「まぶねのかたえに」の原曲はG.C.シェメッリとJ.S.バッハが協力してまとめたシェメッリ歌曲集に"Ich Steh' an deiner Krippen hier" BWV469として含まれています。この曲集は、古くから歌い継がれているコラールやアリアをまとめたものでバッハがオルガン伴奏、通奏低音を加えたり必要な場合は作曲を行ったことによりバッハ作品番号が割り付けられています。その中に確実にバッハ自身が作曲したのものは3曲のみであると判明しており、讃美歌21では「まぶねのかたえ」はバッハ作曲となっていま、真偽のほどは分かっていません。

 

 余談ですが、"Ich Steh' an deiner Krippen hier"のドイツ語テキストは「血しおしたたる」"O Haupt voll Blut und Wunden"の作者であるP.ゲルハルトによるものです。このテキストをバッハは私たち合唱団とって身近なバッハのクリスマス・オラトリオの第6部の59番のコラールに使っています。

 

 


  ♪♪クリスマス・オラトリオとコードリベット・コール♪♪

      

 櫻井吉明氏により1951年に創立されたコードリベット・コールは教会音楽を中心として活動を続けていましたが、バッハの合唱曲への取り組みは大きな目標でした。

 1960年代になり世の中で多くの合唱団においてクリスマスにヘンデルの「メサイア」を演奏するのが一般化する中、「メサイア」がキリストの誕生から受難・死そして復活と言う内容からクリスマスにはバッハの「クリスマス・オラトリオ」の方が相応しいとの櫻井先生のお考えにより1965年に毎年末の演奏を決められました。

 

 「クリスマス・オラトリオ」への当初の取り組みは「誰にでも意味の分かる音楽を」の主旨のもと日本語による演奏を行うこととして、翻訳には日本讃美歌学会の故竹内信牧師を中心に当時団員の故五十嵐氏、現団員のバスのOさんにより行われ、櫻井先生がまとめられました。

 はじめての演奏会は1967年12月ピアノ伴奏で第1部~第3部を演奏しました。1969年から朝日新聞厚生事業団の歳末助け合い事業の一環として、フェスティバルホールでオーケストラ伴奏による演奏を行うことになり、1971年からはテレマン室内合奏団との共演が始まりました。

 1984年に櫻井先生がお亡くなりになり演奏継続の危機に見舞われましたが、1986年に指揮者にオーボエ奏者でバッハ演奏の権威ヴィンシャーマン氏を迎え、ドイツ語による演奏に取り組み継続の危機を乗り越えることになりました。以来、ドイツ語による演奏を行い、1992年まで年末の演奏会を継続しました。

 新たなバッハへの挑戦として1993年「マタイ受難曲」、1996年「ミサ曲ロ短調」への取り組みを行い「クリスマス・オラトリオ」の年末の演奏会開催をやむなく中断しました。1994年に日本国際ボランティア・センター主催の国際協力コンサートに参加することになり、当初ヘンデルの「メサイア」を年末に演奏することになりました。1997年からは「クリスマス・オラトリオ」の演奏を行うことができるようになり、櫻井先生の意思を隔年ながら引き継ぐことができるようになり今日に至っています。 

 

演 奏 年 表

  年月 主催 指揮者 演奏曲目
1 1967.12 自主公演 櫻井吉明 日本語1・2・3
2 1968.12 自主公演 櫻井吉明 日本語1・2・3
3 1969.12 朝日新聞厚生文化事業団 櫻井吉明 日本語1・2・3・4・6(54/63/64)
4 1970.12 朝日新聞厚生文化事業団 櫻井吉明 日本語1・2・3・4・6(54/63/64)
5 1971.12 朝日新聞厚生文化事業団 櫻井吉明 日本語1・2・3・4・6(54/63/64)
6 1972.12 朝日新聞厚生文化事業団 櫻井吉明 日本語1・2・3・4・6(54/63/64)
7 1973.12 朝日新聞厚生文化事業団 櫻井吉明 日本語1・2・3・4・6(54/63/64)
8 1974.12 朝日新聞厚生文化事業団 櫻井吉明 日本語1・2・3・クリスマス曲集
9 1975.12 朝日新聞厚生文化事業団 櫻井吉明 日本語1・2・3・クリスマス曲集
10 1976.12 朝日新聞厚生文化事業団 櫻井吉明 日本語1・2・3・クリスマス曲集
11 1977.12 朝日新聞厚生文化事業団 櫻井吉明 日本語1・2・3・クリスマス曲集
12 1978.12 朝日新聞厚生文化事業団 櫻井吉明 日本語1・2・3・クリスマス曲集
13 1979.12 朝日新聞厚生文化事業団 櫻井吉明 日本語1・2・3・クリスマス曲集
14 1980.12 朝日新聞厚生文化事業団 櫻井吉明 日本語1・2・3・クリスマス曲集
15 1981.12 朝日新聞厚生文化事業団 櫻井吉明 日本語1・2・3・クリスマス曲集
16 1982.12 朝日新聞厚生文化事業団 櫻井吉明 日本語1・2・3・クリスマス曲集
17 1983.12 朝日新聞厚生文化事業団 延原武春 日本語1・2・3・クリスマス曲集
18 1984.12 朝日新聞厚生文化事業団 前田幸一郎 日本語1・2・3・クリスマス曲集
19 1985.12 朝日新聞厚生文化事業団 前田幸一郎 日本語1・2・3・クリスマス曲集
20 1986:12 朝日新聞厚生文化事業団 ヘルムート・ヴィンシャーマン 1-6一部カットあり
21 1987.12 朝日新聞厚生文化事業団 延原武春 1・2・3・6
22 1988.12 朝日新聞厚生文化事業団 延原武春 1・2・3 KantateBWV61Nun komm
23 1989.12 朝日新聞厚生文化事業団 黒岩英臣 1・2・3・4(36/37/39/42)・6(54-57/63/64)
24 1990.12 朝日新聞厚生文化事業団 延原武春 1(1-5)・2(16/17/20-23)・4・5・6
25 1991.12 朝日新聞厚生文化事業団 延原武春 1・2・3・4・5・6全曲
26 1992.12 朝日新聞厚生文化事業団 延原武春 1・2・3 Hodie Christus natus est
Cantate domino
27 1997:12 JVC ジョフリー・リンク 1・2・3・4(39)・5(43)・6(56/57/59/63/64)
28 1999:12 JVC ヨス・ファン・フェルトホーフェン 1・2・3・4
29 2001:12 JVC ローランド・ジョンソン 1・2・3・4
30 2003:12 JVC タリエ・クヴァム 1・2・3・4・5(43)・6(56/57/63/64)
31 2005:12 JVC ヨス・ファン・フェルトホーフェン 1・2・3・4
32 2008:12 JVC ライダル・ハウゲ 1・2・3・5・6(55/56/57/63/64)
33 2010:12 JVC ポール・ポリヴィニック 1・2・3・5(43カット)・6
34 2012:12 JVC バーナービー・スミス 1・2・3・4
35 2013:1 JVC 延原武春 (1)・4・5・6
36 2014:12 JVC マノイ・カンプス 1・2・3 Magnificat BWV243
37 2016:12 JVC 青木洋也 1・5・6 Singet BWV225・BWV Anh159
Hodie Christus natus est
38 2018.12 JVC ヨス・ファン・フェルトホーフェン 1・2・3・4

  

 

♪♪クリスマス・オラトリオの成立♪♪

       

 バッハは1723年から1750年に世を去るまでにライプツィヒのトマス教会のカントルの地位にありました。その地位はトマス教会付属学校の音楽教師でしたが、毎週日曜日ライプツィヒの2大教会であるトマス教会とニコライ教会の礼拝に用いられた教会カンタータや特定の祝日用の音楽の作曲と演奏もバッハの仕事でした。

 

 クリスマスというと12月25日だけを指すと思われがちですが、当時の教会では12月25~27日(クリスマス第1~3祝日)、元日(キリスト割礼の祝日)、顕現節(1月6日)を一連のクリスマス期間とし、それぞれの祝日に礼拝と共にカンタータが演奏されました。この期間に日曜日が入る場合には、その日曜日にも礼拝とカンタータが演奏されました。この期間少ない年で5日分、多い年で7日分のカンタータが必要で、「クリスマス・オラトリオ」を作曲した1734年以前にも数多くのクリスマス期間用のカンタータが作曲されました。

 

 1733年頃バッハは教会暦の主要な祝祭のためにオラトリオを書くことを考えていました。「クリスマス・オラトリオ」は、この最初の作品となりました。オラトリオと題されているものの、作品を通したドラマの流れを追うオラトリオではなくクリスマス期間の祝日(クリスマス第1~3祝日、割礼節、顕現節)とその年、新年第1日曜日となった1月2日用の独立した6つのカンタータの集合体であり、それぞれの日に演奏することを意図した作品です。作品の話は、イエスの誕生、天使によるお告げ、羊飼いたちの礼拝、命名、東方三博士についての聖書の記述であり、6祝日に分けて演奏されるにもかかわらず内容的な統一が図られています。

 

 しかし、作曲が行われたのは1734年10月から12月25日までの間と推定されていますが、この短い期間にレチタティヴォ、コラールを含む64曲をどうやって作曲できたのでしょうか。

 

♪♪クリスマス・オラトリオの作曲方法♪♪

 

 バッハが6部のカンタータで構成される全64曲からなる作品を10月からクリスマスまでの短い期間で作曲できたのは、既存曲の全部または一部に新しい歌詞をあてはめて、再構成するパロディーによって多くの曲を作曲したからです。

 

原曲となった曲は次の通りです。

 ①カンタータ BWV213 「我らに任せ、見張りをさせよ」

   1733年ザクセン選挙候の息子の誕生を祝うために作曲し、13曲中6曲を

   転用しました。

          カンタータBWV213                     クリスマス・オラトリオ

  第1曲合唱                               第36曲(4部)合唱

     Laß uns sorgen                 Fallt mit Danken  

  第3曲アリア(soprano)             第19曲(2部)アリア(alto) 

             Schlafe, mein Liebster        Schlafe, mein Liebster   

  第5曲アリア(alto)         第39曲(4部)アリア(Soprano) 

       Treues Echo,                       Flösst, mein Heiland

  第7曲アリア(Tenor)                 第41曲(4部)アリア(Tenor)

            Auf meinen Flügeln                Ich will nur dir zu Ehren

  第9曲アリア(Alto)                 第4曲(1部)アリア(Alto)

      Ich will dich nicht   Bereite dich, Zion

      第11曲デュエット(Alto,Tenor)   第29曲(3部)デュエット(Soprano, Baß)

            Ich bin deine                         Herr, dein Mitleid,

 

  ②カンタータ BWV214 「太鼓よ轟け、ラッパよ響け」

  1733年ザクセン選挙候妃の誕生日を祝うため作曲し、全9曲中4曲を転用しました。

         カンタータBWV214                    クリスマス・オラトリオ

   第1曲合唱                              第1曲(1部)合唱

             Tönet, ihr Pauken!               Jauchzet, frohlocket 

   第5曲アリア(Alto)                 第15曲(2部)(Tenor)

                Fromme Musen                    Frohe Hirten, eilt, ach eilet

   第7曲アリア(Bass)                第8曲(1部)(Bass)

               Kron und Preis                       Großer Herr, o starker König

   第9曲合唱        第24曲(3部)合唱

      Blühet, ihr Linden    Herrscher des Himmels, 

 

 ③カンタータ BWV215 「恵まれし、ザクセンよ、汝の幸をたたえよ」

   1734年にザクセン候のポーランド王位戴冠1周年を記念に作曲し、

   第7曲のアリア(Soprano)"Durch die von Eifer"を第5部47曲(Bass)

      "Erleucht' auch meine finstre Sinnen"に転用しました。

 

 ④マルコ受難曲 BVW247

  「マルコ受難曲」は1731年に作曲されたが多くを歌詞を除き消失しましたが、

   この中で合唱曲"Pfui Dich, Wie Fein Zerbrichst Du"れが第5部第45曲

   "Wir haben seinen Stern"に転用されたことが判明しています。

 

 ⑤カンタータ BWV248a

   このカンタータはパート譜の一部を除いて失われたもので資料研究により存在が確認され全7曲のすべてを

   第6部に転用されたことが判明しています。

 

 ⑥原曲不明

   第43曲の合唱と第51曲のアリア(3重唱)もパロディーであることが判明しています。

 

 既存の作品に新たな歌詞をあてはめ、新しい作品をつくるパロディーはバロック時代に広く行われていました。教会暦にしたがって数多くのカンタータを作らなければならなかったライプツィヒに着任した頃であれば時間に追われて、パロディーを多用することは考えられますが、作曲数がうんと少なくなった頃に作曲された「クリスマス・オラトリオ」に何故、パロディーを使ったのでしょうか。

 BWV213,214,215などの世俗カンタータは、ザクセン公にまつわる慶祝の機会に使われ、原則として1回限りしか演奏されなかったのに対し、宗教曲に変更すれば教会暦が巡ってくればまた使うことが出来るという事情と教会暦の主要な祝祭のためにオラトリオを書こうという考えが合致、あるいは世俗カンタータを作曲した時からオラトリオに書き換えることを意図していたかもしれないと言われています。

 パロディーは、ミサ曲ロ短調でも行われており、作品の価値を下げるものではなく、さらに価値をあげるものです。

 

♪♪クリスマス・オラトリオの歌詞と構成♪♪

       

 「クリスマス・オラトリオ」は他のオラトリオ、受難曲、カンタータと同じように、

    ①聖書の言葉、

    ②讃美歌(コラール)、

    ③自由詩

 から構成されています。

 

①聖書の言葉

  バッハの教会音楽はすべて典礼と固く結びついており、主にレチタティーヴに用いられます。「クリスマス・オラトリオ」のイエスの誕生、天使によるお告げ、羊飼いたちの礼拝、命名、東方三博士についてルカ伝・マタイ伝から採られています。しかし、教会典礼で朗読される聖句と次のように相違があります。

  クリスマス第1日 

     福音書朗読 ルカⅡ,1-14    オラトリオ   ルカⅡ,1,3~7

  クリスマス第2日

     福音書朗読 ルカⅡ,15~20     オラトリオ  ルカⅡ,8~14

  クリスマス第3日

     福音書朗読 ヨハネⅠ1~14    オラトリオ     ルカⅡ,15~20

  割礼節(元日)

     福音書朗読 ルカⅡ,21     オラトリオ  ルカⅡ,21

  新年第1日曜日

     福音書朗読 マタイⅡ,13~20     オラトリオ   マタイⅡ,1~6

  顕現節(1月6日)

     福音書朗読 マタイⅡ,1~12      オラトリオ   マタイⅡ,7~12

 

②讃美歌(コラール)

 「クリスマス・オラトリオ」には、複数回登場するコラール旋律が3種あります。

  (1) Herzlich tut mich verlangen:

            第1部第5曲及び第6部第64曲(終曲)

     H.L.ハスラーが作曲した五声部の合唱曲はクリストフ・クノールの"Herzlich tut mich verlangen"の旋律として

    用いられました。さらに、 P.ゲルハルトの「血しおしたたる」"O Haupt voll Blut und Wunden"に用いられ、バッ

    ハは「マタイ受難曲」で5度も使用し「受難コラール」と 呼称され、「クリスマス・オラトリオ」では第1部の最初

    のコラールと第6部終曲のコラールとして使われています。

     「クリスマス・オラトリオ」を監修したA.デュア(デュル)は否定しているようですがキリストの受難を予告し

    ているのではないと思ってしまいます。 

  (2)Gelobet seist du, Jesu Christ:

               第1部第7曲及び第3部第28曲

     M.ルター作詞・作曲のクリスマス用コラールで、第7曲はバスのレチタティーヴと掛け合いでコラール旋律が現

    れます。 

  (3)Von Himmel hoch, da komm' ich her:

               第1部第9曲、第2部第17曲及び第23曲

         M. ルター作詞作曲のクリスマス用コラールで、『高き御空よりわれは来れり』として知られています。

 

③自由詩

  合唱曲とアリアに用いられるテキストを作詞した人物は明らかにはなっていません。しかし、「マタイ受難曲」の作詞

 を行いバッハと関係が深く「カンタータBWV213《我らに任せ、見張りをさせよ》の作詞をしたピカンダーではないかと

 言われています。

  それは、「クリスマス・オラトリオ」の合唱曲とアリアの多くの楽曲はパロディーであることから、原曲を知った上で

 オラトリオの楽曲に詩をつけなければならないからで、ピカンダーはBWV213の作詞者であり、全部の作詞は行っていな

 くともバッハと共同で作詞しなければ短期間での完成は出来なかったのではないでしょうか。