♪♪ ヘンデルとモーツァルトのつながり♪♪

 

 ヘンデルとモーツァルトの関係でよく知られているのは、モーツァルトが編曲を行った「メサイア」ですが、「エジプトのイスラエル人」の第1部について気が付いたことがありました。

 「エジプトのイスラエル人」の第1部は、この3月からの練習予定には入っていませんでした。また、現在使用している楽譜が1部と2部&3部の2分冊になっているために、楽譜もまだ入手していないので楽譜も見ていませんでした。

 「エジプトのイスラエル人」の練習は今年予定されている演奏会の曲目の練習のために春の合宿で中断せざるを得なかったので、一段落を機に1部を含めた全曲をCDで聞くことにしました。序曲が終わった後の合唱曲を聞き始めてあることに気が付きました。どこかで聞いた旋律です。そうですモーツァルトの「レクイエム」の入祭唱(Introitus)でバスから入ってくる"requiem aeternam"の旋律です。

 そこで、調べてみたら井上太郎著「レクイエムの歴史」に1825年マクシミリアン・シュタードラーがモーツァルトの「レクイエム」の入祭唱はヘンデルの葬送アンセム「シオンの道は悲しみの道」の第1曲を引用していると指摘し、クリストフ・ヴォルフはこの旋律がドレスデンのコラール集にある”わが時来たれり”であるとされており、このコラールはモーツァルトが「レクイエム」を書く前に、忘れられていたのでモーツァルトはヘンデルの葬送アンセムを引用した想定されるとの記述がありました。

 「エジプトのイスラエル人」の第1部はキャロライン王女のための葬送アンセム「シオンの道は悲しみの道」の歌詞を変更して「ヨセフの死を悼むイスラエルの民の嘆きの歌」として第1部としています。間接的ではあるものの「エジプトのイスラエル人」とモーツァルトの「レクイエム」とのつながりを発見しました。

 

ヘンデルの葬送アンセム

「シオンの道は悲しみの道」

モーツァルト レクイエム 

introitus Requiem aeternam


  

♪♪ 「エジプトのイスラエル人」について♪♪

 

 ヘンデルは「エジプトのイスラエル人」を作曲するにあたり、当初2部構成のオラトリオとして企画し最初に「モーゼの歌」(第3部)を作曲し、次に「出エジプト」(第2部)を作曲しました。初演を行うに当たり、以前に作曲したキャロライン王女のための葬送アンセム「シオンの道は悲しみの道」の歌詞を変更して「ヨセフの死を悼むイスラエルの民の嘆きの歌」として第1部としました。

 初演は1739年にオペラを上演する劇場で行われました。しかし、この初演は、聖書に基づいたテキストを使用したこと、合唱を主にした構成だったこと、当時もてはやされた技巧を凝らしたオペラのアリアの様な曲がなかったことなどの理由で不評に終わりました。以降、再演の時に第1部を割愛し他の曲を演奏し、2部・3部のみを演奏する形態で演奏することになったようです。現在演奏される形態はヘンデルが行った初演の形態を見直して1・2・3部をすべて演奏する形態も増えてきています。

 また、昨年私たちが取り組んだメンデルスゾーンは、バッハの「マタイ受難曲」の再演で有名ですが、イギリスに旅行した際、ヘンデルの「エジプトのイスラエル人」の2部"Exodus”と3部”Moses Song"の楽譜を入手し、1833年に序曲やアリア、レチタティーブの追加、楽器(クラリネット・ホルン)を追加しオーケストレーションを変更、英語からドイツ語への変更、ピアノ伴奏への編曲などを行ってデュッセルドルフで演奏会を行いました。残念ながら合唱曲にカットされたものが多くあるのですが、メンデルスゾーンはヘンデルのオラトリオの研究をし、この後1835年に「パウロ」の作曲し1836年に初演を行い大成功を収めました。メンデルスゾーンが編曲した楽譜は出版され、CDもリリースされています。

 今年私たちが、ヘンデルの「エジプトのイスラエル人」に取り組むことを決定したのは、メンデルスゾーン・ブラームスのロマン派から私たちコーラスのベースであるバロックに戻ろうということでした。しかし、ヘンデルの「エジプトのイスラエル人」のことを調べているうちに、メンデルスゾーンとヘンデルが「エジプトのイスラエル人」を通して結びついていたことを知り、さらに「パウロ」作曲に影響を与えたであろうことが分かり驚いています。 

 

 


♪♪ 「メサイア」のダブリン版について♪♪

 

 2013年JVCの演奏会のメサイアは1742年ダブリン版で演奏することになっています。ダブリン版と言ってもダブリン版と言う楽譜が独立してあるわけではなく、我々が使っているベーレンライターの楽譜には番号の後ろにaとかbのアルファベットのついた楽譜があります。この注釈にオリジナルとかのダブリンのコピーだとか記載されています。何も記述のいないものはそのまま、複数の楽譜がありダブリンで演奏されたと記述があればその楽譜で演奏すればダブリン版で演奏と言うことになります。

 この中で一番楽譜がややこしいのがHow beautiful Their Soundのテキストの曲です。 

 How beatifulの歌詞で始まる曲は全部で5つあり、Their sound2曲あります。まずHow beautiful で始まる曲は楽譜上、次の5つあります。

 ①ヘンデルが最初に作曲したオリジナルバージョンでソプラノによるダカーポ形式の曲で中間部にTheir sound

  テキストが含まれるものでダブリンでの初演には使われなかった。

 ②ダブリンの演奏会に向けて作曲しなおされたものでソプラノとアルトのデュエットに始まり、コーラスBreak forth into joy

  含まれるもの

 ③同じくアルトとアルトのデュエットに始まり、コーラスBreak forth into joy含まれるもの

 ④オリジナルバージョンよりダカーポ形式の中間部を省いたソプラノによって歌われるもの(1749年に変更されTheir soundのアリ

  オーソと共に演奏され始めた)

 ⑤オリジナルバージョンよりダカーポ形式の中間部を省き3度低く移調されたアルトによって歌われるもの(1750年頃改作)

 

 また、Their soundはオリジナルバージョンhow beautiful の中間部として作曲されたが、②および③より削除され、ダブリン初演後に

 ・テナーまたはソプラノによるアリオーソ(1745年)

  ・コーラス版(1749年)

2曲が作曲された経緯があります。

 

 現在の演奏形態では、How beautifulを④のソプラノによる短縮版と呼ばれるものの次にTheir soundはコーラス版で演奏する形態が一般的ではないかと思われます。ただ、How beatifulを⑤のアルトによるものやTheir soundをアリオーソで演奏する場合もあるようです。

 

 今回、ダブリン版で演奏するということになればHow beautifulを②または③で演奏することになり、カウンター・テナーとして高名な青木先生が指揮をされますのでアルト版でアルト・ソリストと青木先生のデュエットが聞けることになるのでしょう。作曲経緯からTheir soundは無しの形態で演奏することになると考えられます。

 

 その他、ダブリン版での演奏による変更は、

  6番アルトのアリアがバスのレチタティーヴォに

  16番ソプラノの4/4拍子のアリアRejoiceが8/12拍子のアリアに

     17番アルトとソプラノによるアリアHe shall feedはアルトのみのアリアに

  32番アルトのアリアThou artはバスに

  36番バスのアリアWhy do the nationはロングバージョン

  38番テナーのアリアThou shalt break themはレチタティーヴォに     

  44番アルトとテナーのデュエットO deathは6小節から22小節目までカットとなるショートバージョンに

 

となります。

 また、26~29番はベーレンライターの楽譜ではテナーが歌う指定がありますがソプラノで歌われるようです。(オクスフォード大学出版の楽譜の指定はソプラノ、テナーのどちらでもよい指定になっています。)

 いづれにしても、いつもと異なるメサイアが聞くことができる演奏会になります。